愛宕神社【千日詣】
京都の普通の家庭の台所には、一家に一枚、火伏せの神符が祀られています。『火廼要慎(ひのようじん)』。京都人の台所を守ってきた力がここにあります。その神符の御神徳を持つ神様のお社。そこが「愛宕神社」であります。
「愛宕神社」は、通称「愛宕さん」として親しまれ、京都の北西『愛宕山』の山頂にお祀りされているお社であります。本宮の御祭神は「伊弉冉尊」・「埴山姫神」・「天熊人命」・「稚産霊神」・「豊受姫命」を、若宮には「雷神」・「迦遇槌命」・「破无神」をお祀りしていらっしゃいます。
大宝年間に修験道の開祖・役行者と白山の開祖・泰澄によって創建された霊山でありました。天応元年には慶俊僧都によって中興、また和気清麻呂に愛宕山に愛宕大権現を祀る白雲寺を建立されました。このように崇敬深い場所でしたので、神仏習合としての崇敬の高い聖地であったといえます。
当時の本殿には本地仏である勝軍地蔵、奥宮(現:若宮)には愛宕山の天狗の太郎坊が祀られていました。またこの頃には本殿周辺にも多くのお寺があったようですが、廃仏毀釈で白雲寺などは廃絶され、本殿が愛宕神社となり、現在に至っているのです。そして、本殿にてお祀りされていました勝軍地蔵は、天台宗金蔵寺に今も大切に祀られています。
「お伊勢へ七度、熊野へ三度、愛宕さんへは月参り」という言葉があるくらい、京都にとって愛宕さんは本当に親しみの深い神様であります。そして、御存知の通り「火伏せの神さま」としても崇敬が厚く、現在でも、京都の地域によっては(愛宕)講が組織され、地区の人々の代わりとして参拝される方が絶える事はありません。特に京都市内には、現在でも多くの「愛宕神社奉灯」を街の所々で燈籠として見ることが出来ます。同様に、一部地域では地区の中心に愛宕神社の火伏せの神符を、三宝荒神の護符と共に納める場所を設け、お受けしてきた樒[しきみ]を祀り、神符を納めている地区を御守りして頂いています。
愛宕神社では、この七月三十一日から八月一日にかけて愛宕神社に参拝をする【千日詣[せんにちまいり]】(正式には千日通夜祭といいます。)に、全国各地から深夜にも関わらず訪れて、一晩中境内は参拝者が途絶える事がない神事を迎えます。といいますのは、この日に愛宕神社にお参りをすると、千日分の火伏せ・防火のご利益があるという言い伝えがあるのです。その為、参拝者たちは、夜から清滝の愛宕山登山口を登り始め、二時間から三時間をかけて登って、愛宕神社をお参りし、火伏せの神符と樒[しきみ]を頂いて帰ります。
登山中には「おのぼりやす」「おくだりやす」とすれ違う人々の会話が、京都らしく愛宕参りの醍醐味でもあります。そして、夜の提灯が灯る本殿を参拝する人々と本殿前で休憩する人々の交流が愛宕信仰の一つの深さを表しているようにも感じました。
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